彼
わたしは、恋をしたようであった
階段を降りて、取り置きのチケットを買う、そこにはなんと彼がいた
今日も今日とて真っ黒の服だった、少しだけ見える肌は雪というよりも、煙のような白さだった
ドリンクカウンター近くにいた彼、かっこよすぎて声はかけられなかった、インスタの質問箱風なもので、わたしが適当に「ひじき」と送ったがために、DMをすることになるとは思ってもなかった
君いいやつだな、待ってるよ、
きゃーというしかなかった、その彼と会えたのだ、きゃーだ
バンドが売れるためには、色々な方法があると思う
いい曲を書く、すてきなライブをする、技術をあげる、SNSをがんばる…
その中の一つに、「惚れされる」をいれてもいいと思う
音楽の前に、人間に惚れさせるのだ
人間に惚れたら、その人がするすべてのことに興味が湧くし、近づきたいし、話したいし、物販買って、収入を増やしたいし、そのバンドを広めてあげたい
人間に惚れたら、こうやってバンドも売れると思うのだ
今日も彼は彼だった
わたしは三列目、彼の目の前、下手にいた
三列目でも彼の目の前だ、すごい
指にはすこしごつめの指輪が複数、手首にはブレスレット複数、手だけみても胸がときめくよ
その手であのベースを鳴らすんだ、、って
音出しでちらっとベースを鳴らしていたが、それだけで帰っても良かった、人間に惚れているのだからそうなるか
顔は小さいし、背は高いし、ベースはうまいし、MCは面白いし、クールだし、なんなんだ
タバコ吸う吸わないわたしはどうでもいいけど、彼がたばこを吸うから、あ、いいかもなんて思ってしまっている
わたしは、恋をしているかのようだ、いや、しているかのようだった